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最高裁判所第一小法廷 昭和29年(あ)2184号 決定 1954年12月27日

主文

本件上告を棄却する。

当審における未決勾留日数中六〇日を本刑に算入する。

理由

弁護人植木敬夫の上告趣意について。

原判決は、「本件山口、寒河江両巡査が被告人に対し、職務質問をするに至った経緯は、前記山口証人の供述する如くであって、被告人の服装、年令、態度、携帯品などから推して当時戸塚署管内に頻発していた窃盗事件に関係がありはしないかとの疑を抱いたことは警察吏員としてはまさに当然であり、更にその所持に係る風呂敷包みの内容について呈示を求められるや俄かに歩きはじめ更に逃げ出す等の異常の態度を示すに至ったため両巡査において益々犯行を犯した者でないかとの疑念を強くし停止を求めるためにその跡を追いかけたことは極めて当然の成行であり、追跡という行動は単に逃走する相手方の位置に接近する手段として必要な自然な行動であって、かかる手段をもって強制又は強制的手段とは認められないことは勿論であり、また、これを以て逮捕行為と目すこともできない。」旨並びに「本件訴訟記録全体を精査しても前顕両巡査が被告人に対しその所持品の呈示を強要したと認められるような証拠はなく、あくまで任意の呈示を求めたに過ぎないこと明らかである」旨を判示している。されば、所論違憲の主張は、その前提を欠き刑訴四〇五条の上告理由に当らない。また、原判決の認定した事実関係の下における法令解釈に関する判示は正当であると認められるから、刑訴四一一条を適用すべきものとも思われない。

被告人本人の上告趣意について。

論旨一は、事実誤認並びにこれを前提とする法令違反の主張を出でないものであり、同二、三は、原判決に影響を及ぼさない事項に関する非難に過ぎないものであり、同四は、原判決の判示に副わない事実関係(弁護人の上告趣意について説明したように原判決は、山口、寒河江両巡査が被告人に対してその所持品の呈示を強要した事実は認められないとしている。)を前提とする違憲違法の主張であって、いずれも刑訴四〇五条の上告理由に当らない。また、記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって、同四一四条、三八六条一項三号、刑法二一条により裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 真野 毅 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 岩松三郎 裁判官 入江俊郎)

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